どぎまぎクリスマス



「ふむ……トルコにもないようだな」
 トルコのシャツをめくり上げながら、ドイツはつぶやいた。
 探しているのは、裏地球を救う者の印である。それは胸か尻にあるらしい。ちなみにさっきアイスランドに調べてもらったが、彼にもその印はなかった。
「では、次は……」
 顔を上げる。緑の瞳と目が合った。
「ハンガリー、脱いでくれ」
 急がなければ裏地球が爆発してしまう。他意はなかったのだが、彼女は「え」と驚いた顔をする。
 それを見て、女性に対してあまりにも迂闊な発言をしてしまったと気づく。目先のことに囚われすぎて、ときどき常識が抜けてしまうのは彼の悪い癖である。
「いや、その、お、俺たちは後ろを向いているから!」
 恥ずかしさと気まずさでまともに彼女を見ていられない。ハンガリーはややためらったようだが、「一大事だものね」とつぶやき、うなずいた。
 アイスランドと共に彼女に背を向ける。「絶対こっち見ないでね」と言う声のあとに、衣擦れの音が続いた。
 白い指先が、なまめかしく誘うようにボタンを一つ一つ外す光景が浮かんだ。開いていく襟ぐりから徐々にあらわになる、雪のような肌。思わず生つばを飲みこんで、なにを考えてるんだ俺は、と自分を叱る。
「ん……」
 押し殺した吐息が聞こえる。そりにはなにか特別な加工が施されているのか、乗っていてもまったく寒くないが、ぞわりとしたものが背筋を走った。
 妄想をたくましくしてしまうのは自分だけなのかわからず、横目でアイスランドの様子をうかがう。いつもと変わらず、つまらなそうな表情でそりの下の街並みを見ている。
 この少年は外見年齢こそドイツより下だが、実際の年齢はずっと歳上だ。こんな状況でも冷静に対処できるのだろう。見習わなくてはと思った矢先、ばさりと布がそりに落ちる音がして心臓が飛び跳ねた。
 同じそりの上で女性が脱いでいる。こんな状況に、童貞の彼の精神がそもそも耐えられるはずがないのだ。想像はいやが上にも膨らむばかりである。
 熟れた果実のように豊かな胸。折れそうなくらいに細い腰。ぷるんとやわらかい尻。ちくしょう振り向きたい。
「どう? あった?」
 アイスランドの声にぎょっとする。一瞬、自分の不埒な思考が見抜かれたのかと思った。
「私もなしよ……まったく人騒がせな話ね……」
「そ、そうか……わかった」
 振り向こうとして、あわてた声が彼の動きを止めた。
「待って待ってボタンしめてないの!」
 一時期ハンガリーと結婚していたというオーストリアをぶん殴りたくなった。 ただの八つ当たりである。


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10/12/31 初出
12/12/25 改稿再録