冬の曙
なんだかロシアさんが喜びそうな夢を見たなぁとか、そんなことはどうでもよくなった。
だって俺の目の前には、ベラルーシちゃんがいるんだから!
「っ、……!!」
思わず叫びそうになって、あわてて押し殺した。床にぺたりと座りこんだ状態でベッドの上で腕を組んで、その中に頭を入れている体勢は、どう見ても、眠っているときのものだったから。
呼吸のたびに上下する肩。子どもみたいなあどけない吐息。気持ちよさそうだから、起こしたくない。
なんでここに? ううん、そんなことより、寒くないのかな? 昨夜は冷えこむってニュースで言ってた気がするのに。
そろりそろりとベッドを抜け出す。スリッパに足を通したら冷たくて、足先から頭まで寒気が駆け抜けた。
音を立てないようにそうっとベラルーシちゃんの背後に回る。わきの下から腕を入れて、抱え上げた。
普通の人ならすぐに目を覚ますんだろうけど、一度寝たらなかなか起きないベラルーシちゃんは寝言すら漏らさなかった。引きずるようにしてベッドに横たわらせても、まぶたすら動かない。さすがベラルーシちゃんだ。かわいい。
ベラルーシちゃんに毛布をかけてあげた。吐く息がうっすらと白い。窓を閉め忘れてしまったのかもしれない。
今度は俺がさっきのベラルーシちゃんみたいに床に座りこんで、寝てる彼女を見つめた。
ばらばらになってひたいを覆う前髪。銀糸の刺繍みたいな三日月形の眉。青い血管がうっすら透ける薄そうなまぶた。イチゴチョコレートみたいな桃色の唇。ぜんぜん飽きずに見つめ続ける。
つい、ため息がもれる。
「かわいいなぁ……」
こんなにかわいい子が、短い間とはいえ一度は俺の奥さんだったなんて、嘘みたいだ。
あのころもそういえばよくこういうことをしたなぁ。クリスマスツリーの下にあるプレゼントを早く見たくてしょうがない子どもみたいに、いそいそと早起きをして、曙(あけぼの)の光がベラルーシちゃんの顔を少しずつ浮かび上がらせるさまを、じっと見つめた。
「大好きだよ」
小さくつぶやく。今の俺はきっと、だらしないくらい頬がゆるんゆるんになってるんだろう。
「……よし」
離れがたくて、小さくつぶやいてふんぎりをつける。
ベラルーシちゃんのために朝ごはんを作ろう。熱いコーヒーと、あとそれから、ウォトカも出してこよう。
もう俺たちは夫婦でもなんでもないけど、あのころみたいに、おいしいものを食べて、「おいしいね」って笑えたらいいと思うんだ。
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11/12/30 初出(イベント無配)
12/12/25 改稿再録