ヘタレとその周辺の人びと



 イタリアと同盟を結んでから早数ヵ月。奴の扱いにはいまだに慣れていない。
「まったく、このお馬鹿さんが!」
 俺の答えを聞き、オーストリアはまなじりをつり上げる。ポコポコと憤怒を吹き出したかと思えば、長ったらしい説教をはじめた。
 弁解にも聞く耳を持たない。そのうち、またピアノで怒りを表現するのだろう。
「なにしてんだ、二人とも」
 そこへ兄さんが通りがかった。話をややこしくするだけなのに、興味津々で首を突っこんでくる。
 嫌々ながら話の流れを教える。つまり、イタリアとこれから盟友としてうまくやっていく自信がないことを。
 話を聞いて、兄さんは露骨に羨ましそうな顔をする。そういえばあいつのことがお気に入りだったな。
「贅沢だぞ、ヴェスト。イタリアちゃんといいことできるんだろ?」
 誤解を招くような表現はやめてくれ。
「不満があるんだったら俺と代われよなー。まだ俺は現役だぜ?」
「それはダメだ」
 即座に却下する。
 兄さんとイタリアが同盟なんて、想像するだけで恐ろしい。なにが起こるか分かったもんじゃない。
 そうですよ、とオーストリアもうなずいた。
「貴方がイタリアを扱いきれるとは思いません」
「てめえ、居候の分際で何様のつもりだ」
 兄さんはオーストリアのマリアツェルをつかんで引っぱった。暴力なんてお下品です、うっせえこの腐れ坊っちゃん、とらちのあかない口論が始まる。
 こうなると思ったんだ。やめてくれ。
「こんにちは、オーストリアさん」
 今度現れたのはハンガリーだ。彼女はよくオーストリアに会いに来る。そして、兄さんともめているのを目撃しては、
「オーストリアさんになにしてんのよ!」
とフライパンをうならせる。もろに食らって、兄さんは床に倒れた。
 あまり心配はしていない。どうせすぐに復活するだろう。
「大丈夫ですか?」
 鬼神のような表情から一変、心配げなものになる。
「はい。ちょうど、トルテが焼き上がったところです。召し上がっていくでしょう?」
「もちろんです」
 ドイツもどうぞ、と誘われるままダイニングに向かう。いつの間にか蘇生した兄さんは、ちゃっかりと自分のトルテを確保していた。
「ところで、さっきはなんの話をしていたんですか?」
 話をぶり返されて、さすがにうんざりする。二度めになる説明を口にするのも億劫だ。
 それなのに、俺の話を聞いた彼女はおかしそうな顔をする。
「楽しそうでいいじゃない」
 確か、前にイタリアを黙らせる方法を聞くために電話をしたときも同じことを言っていた。
 楽しそうなのは俺ではなくてお前だろう、と言ってやりたい。言えないが。
「マイペースだけど、悪い子じゃないわ。ね、オーストリアさん」
「そうですね。料理の腕が大変秀でています」
 長い付き合いの二人から言われるとそれもそうかもしれない、と思えてくる。あながち、欠点ばかりではないのかもしれない。
 二人は目を見交わし、うなずいた。
「ヘタレだけど」「ヘタレですが」
 ……そうだな。ヘタレだ、奴は。
「そんな言い方すんなよ、イタリアちゃんが可哀想だろー」
 かばうように兄さんが言った。
「可愛いじゃねえか。世間ずれしてねえし」
 「世間ずれしてない」、というのは、「常識知らず」のかなり好意的な解釈と取っていいのだろうか。
「まあ、ヘタレなのは事実だけどよ」
 フォローになってない。むしろ決定打だ。
「はぁ……」
 思わずため息がもれた。
 とりあえずこのトルテを食べたら、薬屋に胃薬を買いに行くことにしよう。


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09/08/01 初出(拍手)
09/10/01 再録