ゆめをはんぶんこ
お赤飯の入った鍋を持ってやって来た私に、ドイツさんは渋い表情をしました。
「それはなんだ」
「お赤飯です。私の家ではお祝いごとがあると作るんですよ。結婚式とか」
事実を言ったまでですのに、眉間のしわはさらに深くなりました。
「で、お前はなにを祝うつもりなんだ」
「イタリア君から聞きませんでしたか?」
ネコとたわむれるイタリア君(どうやら私が来たことには気づいていないようです)に、ちら、と視線をやり、ドイツさんは首を振りました。そして、あくびを一つ。眠そうに目をこすりました。
「それですよ」
「は?」
「イタリア君がドイツさんより早起きしたお祝いです」
「は!?」
ドイツさんの大声で、イタリア君がこちらに振り返りました。ようやく私に気づいて、「日本だー! やっほー!」と手を振ってきます。
「なに持ってるの?」
「お赤飯ですよ」
この説明は何度めでしょうか。別にかまいませんが。
「オセキハン? なにそれ、おいしいの?」
「おいしいですよ」
「わーい、食べよ、食べよ!」
ちょうど昼食どきだったので、三人で食べることになりました。平皿の上に盛られたお赤飯。なにやら不思議な光景です。
ドイツさんが作ったブルストとジャガイモを付け合わせに、フォークでいただきます。
「白米とはちょっと違うけど、これもおいしいね」
「うむ」
「気に入っていただけたのでしたら光栄です」
イタリア君から電話をもらって急いで炊いた甲斐がありました。もうちょっと余裕があったら、もっと手間ひまをかけたおいしいものを持ってくることができたのですが。
「それにしても、珍しいですね。ドイツさんが寝坊なさるなんて」
「うん、俺もびっくりしたー」
「あー……それは、だな」
ドイツさんは何か言いたそうに口を開きました。
ですが、イタリア君をちらりと見ると、頭を抱えてしまいました。「変態エロ親父」「酒池肉林」「海産物」などとぶつぶつ言っています。なんのことでしょうか。
「どうしたの、ドイツ」
「お前は、なにも気づかなかったのか? 昨日の夜」
「ううん、ぜんぜん」
「そうか……ならいい」
だからなんのことですか。
「で、結局なんでドイツは起きれなかったの?」
「……悪い夢にうなされたんだということにしてくれ」
ため息をつきながらドイツさんが言うと、イタリア君はふうん、とうなずきました。
「俺はいい夢を見たんだけどなあ」
「……だろうな」
がっくりうなだれるドイツさん。
いかつい肩をばしばしと叩きながら、イタリア君が笑いました。
「大丈夫だよ! 今度はもうそんな夢見ないから!」
「その自信はどこから来るんだ」
「だってさ、」
俺がお前に幸せな夢を分けてあげるから。
自信たっぷりに言い切ったイタリア君を、ドイツさんはしばらく見つめて、少しだけ眉を開きました。
「お前が言うと本当になりそうだ」
「でしょ?」
えへへー、と笑み崩れて、イタリア君が私に目を向けました。
「そのときは、また、オセキハン持ってきてね」
「ええ、もちろんです」
けれど、そのときは、お茶碗とお箸を三つ持参することにしましょう。
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10/05/16 初出(チャット)
10/06/01 改稿公開(拍手)
11/06/04 再録