我最喜歡的
※台湾のキャラが判明する前に書いたため、口調・性格が違います
陽射しに目を細めながら、縁側で足を揺らした。
初めてこの家に来たときは足が届かなかったんだっけ。もうずっとずっと前のこと。私が子どもで、日本さんが若かったころ。
羊羹(ようかん)を口に放りこむ。この味はなんにも変わらない。甘さを押し流すお茶の味も、そう。子どもっぽい私の好みに合わせて渋みはひかえめで……ちょっぴり、嬉しくなる。
「日本さーん」
奥の間にいる彼に大声で呼びかける。閉まっていたふすまがすうっと開いて、すきまから顔がのぞく。今は慣れてるけど、最初はオバケみたいで怖かった。
「なんですか」
「私、大好きです」
日本さんはかすかな笑みを作る。なにを、とは問わない。知ってるんだから、当たり前。そんなことすら嬉しくて、ますます笑顔になる。
私が好きなのは、ひなたのにおいがする縁側と、甘い羊羹と、熱いお茶と、そんなものを包んでいるこの家と、それから。
「光栄ですよ、台湾さん」
そこに私を割りこませてくれる、貴方。
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09/10/25 初出(台湾誕生日)
10/01/24 改稿再録
<補足>
・我最喜歡的→(中)私のお気に入り
Geruch
書類に目を通して髪をかき上げたハンガリーからふわりとこぼれた香りが、風に乗って鼻腔に届く。
――いつもと、違う。
高潔ぶりながらも存在感のあるそれの意味することは、今さら考えるまでもない。
「オーストリアの奴に、会ったのか」
「え? うん」
なんで分かったの、と不思議そうな顔をする。慣れすぎて鼻が馬鹿になっているらしい。近くにいすぎて、今さら分からないってか。
脳裏に、浮かぶ。
生まれたままの姿で睦(むつ)ぶ男女。
肌をこすり合わせるうちに染まっていく、熱と匂い。
「……」
無性に腹が立って、いたたまれなくて、目をそらした。
俺がこいつを無理に抱いたとしても、俺の匂いは移らないんだろう。シャワーで流せばきっとすぐに消える。何事もなかったかのように。
「それがどうしたの」
「……なんでもねえよ」
「? ……まあいいや。こっちは訂正があって――」
匂いが流れても、気持ちだけがそこにわだかまっている。
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09/09/28 初出(チャット)
10/01/24 改稿再録
<補足>
・Geruch→(独)匂い
Чатыры
「ありがとうございましたー!」
威勢のいいかけ声とともに、十八人が礼をした。外したキャップをかぶり直し、敵チームと握手をする。互いに健闘を称え合う。それはそれは爽やかな光景なのだろうと、私しかいない応援席を立ちながら思った。
ずっと座っていたから尻が痛い。なんでせっかくの休日に、わざわざきっちり制服を着て、他校とのどうでもいい練習試合なんか見なきゃいけないんだ。マネージャーでもないのに。ふざけるな。
「ナターリヤ!」
能天気な声。思わず眉をひそめる。
バカみたいに手を振っているのは、背番号四のアルフレッドだ。「君に俺の雄姿を見てほしいんだ」とかほざいて呼びつけたくせに、炎天下に何時間もほったらかしにした張本人。
まあ、自分で「雄姿」とか言ってしまうだけのことはあった。いきなりホームランをかっ飛ばして敵のやる気を見事にぶっ潰していたが、そこがまた気に入らない。
口に手を当ててメガホンのようにすると、言葉を区切りながら叫ぶ。
「今日のヒットは全部! 君に! 捧げるよ!」
「なっ」
ひゅーひゅー、と冷やかす声。私の顔の温度も怒りのボルテージも上がって、なにを言えばいいのか分からなくなった。
スカートのすそを握りしめる。チームメイトたちに小突かれているアルフレッドに向けて、とにかく叫んだ。
「このうんこ!」
「えー、なんでだい!」
残念そうな顔に少しだけ溜飲(りゅういん)を下げて、さっさと家に向かった。あいつのヒットを返品するのを忘れたと、あとから気づいた。
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09/09/09 初出(ブログ)
10/01/24 改稿再録
<補足>
・Чатыры→(辺)四
かにゃださんとクマ二郎さん
ぷつん、と花を摘み、手にした花冠に加える。これでおしまい、と輪を閉じ、ワクワクしながら頭に乗せたが、花が足りなかったのか、幼いカナダの頭にも小さかった。
残念だが、捨てるのはもったいない。まあいいや、と野原に寝転がった。風も陽射しも申し分ないくらいに気持ちよく、そのまま眠ってしまうのに時間はかからなかった。
雲に乗る夢を見た。ふわふわと柔らかく、白く、あたたかな。
目を覚ましても雲は視界にあり、夢って分かる夢なんて変なの、と思った。
「オ前、誰ダ?」
雲がしゃべった。びっくりしながら飛び起きる。よくよく見れば、雲ではなくクマだった。
「かにゃだだよ」
舌たらずの口調で言えば、聞いたのは向こうのくせに、フウン、と興味のなさそうな返事。
「きみは?」
「俺ハ、クマ二郎」
「そっか、よろしくね、クマ之助さん」
ふかふかした頭をなでる。気持ちよくて楽しい。ふと、サイズの合わなかった花冠を思い出した。
「これあげる。おともだちのしょうこ」
白い毛並に、鮮やかな花冠はよく映えた。えへへ、と笑わずにはいられない。
「よろしくね、クマ大門さん」
「……オ前、誰?」
「かにゃだだよ!」
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09/09/07 初出(チャット)
10/01/24 改稿再録
ラッキースケベに天誅を
「きゃあっ」
甲高い声をあげると、ハンガリーはスカートを押さえた。ほんのさっき、風が吹いてめくれたばかりのそれを。
くるりと振り返ると、俺をにらみつける。長年の付き合いで、イヤな予感がした。
「見た……?」
「み、見てねえよ、青いボーダーの布切れなんか!」
「嘘つけこのスケベ!」
どこからか取り出したフライパンで殴りかかってくる。そう何度も同じ手を食らうか。バックステップでよける。
「坊っちゃんだって見てたぜ! そっちはいいのかよ!」
「え」
赤面すると、同じ状態になっている奴に顔を向けた。
「見えました?」
「……ええ」
「あの……すみません、見苦しいものを見せてしまって」
「いえ、お気になさらず」
なんだよその会話。中坊かよ。ちくしょう、バカップルは死ね。
「……見せるならオーストリアさんだけがよかったのに!」
八つ当たりにしか聞こえないセリフを吐いて、スイングしたフライパンは結局俺のこめかみに叩きこまれた。
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09/08/06 初出(ブログ)
10/01/24 再録