すき・キス・すき
大好き、と言ってからキスをするのが、彼女の流儀であるらしい。食事の前に、神に祈りを捧げるのと同じように。
「ん、む」
口の中を探る舌の動きに翻弄されて、小さく声を漏らす。それはどことなく苦しそうで、申しわけないと思うのに、ますます歯止めが効かなくなる。
服にしがみついている手をほどかせて握ると、かすかに汗ばんでいて、ぺたりとくっつく。軽く力をこめると、同じようにしてくる。
いとしい。かわいい。たまらない。くるしい。せつない。
唇を解放すると、大きく呼吸する。目が合えば照れたように目を伏せ、抱きついてきた。
間近にある首筋に吸いつく。びくりと身体が跳ねた。ますます身体が密着する。
「神聖ローマ」
「なんだ」
「……大好きだよ」
細い細い腰を、力いっぱい抱くと、耳元で彼女が笑った。
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10/02/22 初出(ブログ)
11/06/12 再録
守られているのは、
なにがあったというわけでもないのに、夜中にふと、目が覚めることがある。
またすぐに眠ってしまうこともあるが、ボタンをかけ違えたように眠気がなくなってしまって、ベッドの中で悶々とすることの方が多い。
今夜もやはり後者の方だった。だが今日はいつもと違い、時計の秒針の規則的な音が聞こえてこない。それとは違うリズムのものがあるからだ。
背中にあたたかいものがふれていることに気づいて振り返った。……やはり、というかなんというか、イタリアだ。また勝手に俺のベッドに忍びこんできたらしい。
彼女の立てるやわらかい呼吸の音が秒針の硬質な音をかき消していた。ほんのひそやかなものでも夜の静けさの中ではそれなりに目立つ。
「……!」
あることに気づいた。
彼女がいるときは、いつも朝まで寝ていられる。起きたらいつの間にか隣にいるパターンばかりだ。一緒にいて目を覚ますのはこれが初めてだった。
――もしかしたら。
白いほおを手の甲でなでる。ふにゃ、と彼女がくすぐったそうに表情をゆるめると、俺も気持ちのどこかがゆるんでしまう。
いつだって、守っているのは俺の方だと思っていた。ヘタレで泣き虫で甘ったれな彼女には俺がついていてやらないとダメなんだ、と。
――だが本当は、違うのかもしれない。
彼女が寝言でなにかをつぶやいた。そのあと楽しそうに笑ったのは、いい夢を見ているのだろう。
あどけないような様子を見ていると、急に眠くなってきた。小さな身体を抱き寄せると、夜なのに太陽のにおいがした。あくびをして、目を閉じる。
守られているのはお互い様だ。
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10/02/15 初出(ブログ)
11/06/12 改稿再録