証言する頬



 コンコン、とノックの音。誰かな、なんて思いながらドアをひらいて、目も大きくひらくことになった。
「ベラルーシちゃん!」
 大きな声が出てしまって、間近で聞いた彼女がすごく綺麗な顔をしかめる。
「うるさい」
 慌てて謝る。ふん、と鼻を鳴らされた。そんなところも可愛い!
「部屋に入れろ」
「あっ、えっ、うん! ど、どうぞ!」
 夢心地で部屋に招いた。なんだか頭がふわふわする。俺の部屋にベラルーシちゃんがいるなんて、これ、現実なのかな?
 ちょっと不安になって頬をつねった。……痛い。やっぱり現実なんだ!
「ちょっとベッドに座れ」
 ベラルーシちゃんが言った通りにする。一体なにをするつもりなんだろう。
「お前、私のことが好きなんだろ」
「うん」
 ちょっと照れるけど、本当のことだからうなずいた。「それなら話は早い」と言うと、首元のリボンを外す。
「一発だけヤらせてやる。終わったら、二度と私に近づくな」
 ばさり。床に落ちる服。それを蹴飛ばして俺に近づいてくるベラルーシちゃん(全裸)。呆然とするしかない俺に近づいてくる。
 っていうか、結構さらっと言っちゃったけど、もう一回言うけど、全裸だ。ヌード。マッパ。すっぽんぽん。生まれたままの姿。
 雪より真っ白な肌、ふんわり丸い胸、きゅうっと細くくびれた腰、ボタンみたいなおへそ、……全然目が足りない。
「べっ、ベラ――」
「うるさい」
 いつの間にか近くに来ていた彼女は、俺の肩を押した。背中からベッドに倒れた俺の身体の上に馬乗りする。
 たぷんたぷんと揺れる胸から目が離せない。なにが入ってるんだろう。水かな。桃色の先端に噛みついたら中身が漏れちゃうのかな。それはやだなぁ。
 カチャカチャ。ベルトの外される音がして、ようやく我に返った。現実逃避してる場合じゃない。
「だ、ダメだよ!」
 細い肩を押す。彼女は表情を変えずに言った。
「男は女にまたがられて、『あんあん』とか『イっちゃう』とか言われるのが好きなんだろ」
「確かにそういうシチュエーションに憧れがないわけじゃ……違うって!」
 墓穴を掘った。
「中に出してもかまわない」
 女の子にこんなこと言われたくない。
「と、とにかく、ちょっと落ち着いて! ね!」
 上半身を起こそうしたら、スラックスの上から硬くなった分身を握られた。瞬間的に走る気持ちよさに力が抜けて、またベッドに倒れる。
 そんな俺を見下ろして、ベラルーシちゃんは握りしめたまま冷たく言った。
「ちゃっかりおっ立てやがって、身体は正直だな」
 禁欲的な生活の中で、好きな女の子に裸でいきなり迫られてこうならないはずがない。今だって、頭の端が凶暴な欲求にじわじわ犯されつつある。
 ――彼女が好きなことも、こういうことをしたいって思ったことも、全部事実だ。それが叶うのに、なにをためらうことがある。
 だけど、流されるわけにはいかない。こんなのよくない。
「そこどいて」
「黙ってされるがままになってろ」
 下を脱がされそうになる。けど、俺は手首を押さえてやめさせた。
「こんなことしちゃダメだよ」
「なにがダメなんだ。お前は私とヤれる。私はお前につきまとわれなくなる。どこにも問題はない」
「あるよ!」
 かすかないら立ちが、キツい口調になった。びく、と華奢な身体が揺れる。
「俺は、ドキドキしながら告白したり、レモンの味のファーストキスをしたり、そわそわしながら手をつないでデートしたり、勘違いでケンカしたり、そういうのの後じゃなきゃ、したくない」
 一足飛びにセックスしたって、心の伴わないそんな行為に意味はない。一人でしてるのと同じだ。
「私のことなんか、大事にしなくていい」
 ぽつりとつぶやいた彼女はうつむいていて、表情が見えない。
「なに言ってるの、大事にするよ!」
 ベラルーシちゃんのこと、好きだから。
 そう言ったらますますうつむかれて、どうしたらいいのか分からなくなる。下手に刺激したくない。麻痺のような欲求は確実に広がっていて、本当は俺だって危うい。
「私はお前が嫌いだ」
「……うん、知ってる」
 彼女が好きなのは、兄のロシアさんだけだ。分かってても好きなんて、本当にどうしようもないけど、気持ちは変わらない。動かない。
「私には兄さんしかいらない」
「うん」
「なのに視界をチョロチョロするお前が、本気でウザい」
「ごめんね」
 謝ったら、ものすごい表情でにらまれた。
「死ね、ちんこもげろ!」
 バシッと頬に衝撃。ひっぱたかれた。驚いてる間に、ベラルーシちゃんは服を着てしまう。そして、大きな音を立ててドアを閉めて、部屋を出ていってしまった。
「……なんだったんだろ」
 俺、幻覚でも見たのかな。
 でも、じんじんと熱を持って痛む頬が、そうじゃないと言っていた。


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10/02/16 初出(ブログ)
10/03/02 改稿再録