ハウリングの海



 キィン、と耳障りな音が、起きろ起きろと叫んでいる。
 うなりながらまぶたを開ける。正体はよくあるマイクの共鳴だけど、音が頭に食いこんで割れそう。
 マイクのスイッチが切られたら、音が止んで楽になった。
『えー、話を続けます。今学期は――』
 聞いてる人の方が少数なのに、舞台の演壇で校長はまだしゃべっている。
 ふわああ、とあくびをした。私の前に座っている姉ちゃんは、あんなにうるさかったのにまだ寝ている。図太いなあ。さすが。
 だけど私は、眠気がもう吹っ飛んでしまっていた。首を回して、隣に座っているルーイを見る。真面目に聞いてる。すごい。えらい。
「眠くならないの?」
 暇でしょうがないから話しかける。全校生徒の集まった体育館の中は暑い。服で扇いでもあんまり変わらない。うちわや下敷きを持ちこんでいる子もいる。私も持ってくればよかった。
「いや。終了式だからな」
「だから眠いんだよー。話はつまんないし」
 周りの子たちは講話そっちのけで、明日からはじまる夏休みの予定について語り合っている。あるいは、私や姉ちゃんみたいに寝てる。
 ルーイみたいな子なんて、それこそルーイしかいないんじゃないかなぁ。
「夏休み、どうするの」
「塾に通うつもりだ。受験生だからな」
 ルーイは前を向いたまま答えた。眼鏡をかけた横顔は生真面目だ。
「え〜? つまんないの」
「前から思っていたが、お前には受験生としての自覚が」
 ようやくこっちを向いたかと思ったら、お説教が始まった。適当に軽く聞き流して、ぼんやりと物思いにふける。
 夏休みは楽しみだけど、それよりも暑さが今は気になる。制服が汗でベタベタして気持ち悪い。お腹も空いたし喉も乾いたし、なんか冷たいものがほしいな。
「いいか、そもそも受験というのは――」
「ねえ、帰りにさ、コンビニ寄ってアイス買わない? 私、ソーダ味がいいな。ルーイは?」
 大げさなくらいにため息をつかれた。なにをそんなに落ちこんでるんだろう。
「どうしたの? お金ないなら貸すよ?」
「ちゃんとある……」
「じゃあ行こうよ。何味にするの?」
「……レモン味」
 暗いなあ。明日から夏休みだっていうのに。勉強のしすぎじゃない? いつだって真面目なのも悪くないけど、たまには羽を伸ばしたっていいのに。
「そうだ、夏休みには海に行こうよ!」
 我ながら名案だ。部屋に閉じこもって勉強してるよりもっといい。想像しただけで、潮の香を感じた。
 なのにルーイは「は?」と言いたそうな顔をしている。シャツの袖をつかんで引っぱる。
「ね、行こうよ。姉ちゃんとか菊とか、みんな誘って。私泳ぐの速いんだよ、勝負する?」
「あのなあ」
 砂浜でヤドカリを拾って、海で汗を流して、休憩時間には焼きそばを食べて。すごく楽しみ。
「うーみはひろいーな、おおーきいなー♪」
 ルーイはまたため息をついて、でもちょっと笑った。
「帰ってきたら勉強だからな」
「やった!」
 ワクワクの高鳴りのように、またマイクがキンキンとわめいた。その波長はどことなく、潮騒に似ている。


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09/06/21