空はいと高き



 初めてドイツさんにお会いしたとき、綺麗な瞳を持つお方だと思いました。お兄様のプロイセンさんとは違う、澄んだ空色。ため息をつきたくなるほど綺麗なのです。
 彼は私に言いました。次に会うときは仲間を連れてくる、と。そのときの表情はどこかあいまいで、なんでもきっちりしていそうなドイツさんには不似合いで、内心首をかしげたものです。
 そしてお会いしたイタリアさんは、とても愛らしい方でした。くるくると表情を変え、のんびりと笑い、そして……当たり前のようにドイツさんを隣に置いているのです。
 とても不思議な光景でした。幼子のようにドイツさんを頼る彼女、当然のように相手をするドイツさん。まるで正反対です。
 二人はそれでも仲むつまじく、ときおり疎外感を覚えることもありました。元々、私は第三者の立場に自らを置きたい性格だったのですが、お二人といるときは強く感じました。
 けれど、イタリアさんは、「日本もおいでよ」と私の手を引いて、仲間にしてくださるのです。ドイツさんもようやく気づいたという気まずい顔をして、自然に私を迎えてくださいました。
 三人でいることが、とてもとても幸せでした。今でも、思い出せばこの胸は温もりに満ちてゆきます。
 ……いつのころからか、お二人は私を入れてくださらなくなりました。
 いいえ、仲間外れにされたわけではありません。むしろ、三人で過ごす時間は以前より増したくらいです。
 けれど、ドイツさんとイタリアさんの間には、以前にはなかった結びつきができていました。目を見交わす、ふれる、名を呼ぶ、そんな何気ない動作の端に、それがのぞくのです。
 一体それがなんなのか、知ろうと思うまでもなく、答えはやって来ました。イタリアさんの唇から。
 ドイツさんと、結ばれたのだと。
 本当はもっと直接的だったのですが、そのようなことをイタリアさんは言いました。恥ずかしげにする影に、女の喜びを秘めて。
 おめでとうございますと、私は言いました。本当にそう思ったのです。お二人が惹かれ合っているのは傍目にも明らかでしたから。
 私を呼ぶ唇でドイツさんはイタリアさんに口づけて、私に敬礼をする手のひらでドイツさんはイタリアさんにふれて、私を見る瞳でドイツさんはイタリアさんを見つめて――。
 そんな感情に、知らぬふりをしたのです。その賢愚は、もう、分かりません。

 あれからずいぶん経つようです。
 今の私たちは同盟関係にありませんが、様々な機会で顔を会わせています。やはり、ドイツさんの隣にはイタリアさんがいます。
 あのころの気持ちが恋だったと、最近気づきました。ですが、今となってはどうでもよいことです。
 私は、恋が古ぼけたアルバムで色褪せながら朽ちてゆくその過程を、ただ見守っていようと思います。
 空に、手は、届かないのですから。


↑特殊系目次に戻る

↑小説総合目次に戻る


09/10/07 初出(ブログ)
09/12/20 改稿再録