未来の肖像
じいぃぃぃ。
イタリアの向ける視線が突き刺さる。さりげなく顔をそむけてみたのだが、彼女はそれでも目をそらそうとしない。今度はわざとらしく咳払いもしてみた。まったく効き目がない。
「俺の顔になにかついてるのか」
そろそろいたたまれなさに我慢できなくなり、思い切って尋ねてみる。
「ううん。なんにもついてないよ」
「……それなら、なんで俺をずっと見てるんだ」
「夢を見たんだ。僕と神聖ローマが大人になってた」
それとこれとなんの関係があるんだ、と思っていると、にこにこしながら続ける。
「今の神聖ローマが、夢の中の神聖ローマみたいになるのかなあ、って思って」
納得したが、新たな疑問が芽生える。
「夢の中の俺は、どんな感じだったんだ?」
「えっとね、オーストリアさんより身長が高くて、すっごくカッコよかったよ! 僕をお姫様抱っこしてくれた!」
ちょうど手元にあった紙の上を、すらすらとペンが走る。伏し目がちの瞳、短く刈った金髪、どこか不機嫌そうな表情。簡略だが特徴を捉えた肖像に、少しうなる。確かに、このまま自分が成長したらこうなるのだろう。
だが、なんとなく痩せぎすな印象を受ける。これでお姫様抱っこができたのが不思議なくらいだ。もっとたくましさがないと、彼女とローマ帝国になったときに苦労しそうだ。
「お前は?」
「え?」
「大きくなったお前は、どうなっていたんだ?」
「僕はこんな感じ」
彼の絵の隣に現れたのは、長い三つ編みのお下げを垂らし、彼女の家の民族衣装を着た少女だった。ほがらかで平和そうな表情がいかにも、それらしい。
正直に言おう。彼の好みどストライクだった。突き詰めればイタリアならなんだっていいのは事実だが、特にこれは琴線にふれた。
春の野原で歌いながらくるくると回る姿が簡単に想像できる。二人で色んなものを見て、あらゆる道を歩きつくす。どんなときも、なにがあっても、決して離れることなく。
そんな未来が待ち遠しくてたまらない。
「早く大人になれたら、いいな」
独り言のようにつぶやく。すると、「そうだね」と彼女は愛らしく笑った。
「大人になったら、パスタが今よりもっとたくさん食べれるもん!」
「……他にはないのか」
どこまでも食欲旺盛な彼女にあきれながら問う。もうちょっと色気のあることは言えないのだろうか。例えば、舞踏会で一緒に踊るとか。
大きく開いた胸元や白い肌を想像して一人でどきどきしていると、イタリアがにっこりした。
「背が高くなったら窓拭くのも楽になるよね!」
「……そうだな」
彼女にそういうものを理解しろという方が難しいのかもしれない。だがしかし。
ジレンマで頭を抱えてしまう。首をかしげる彼女はなにも悪くない。そういうことにしたいが、少しくらいなら恨みに思っても許されるのではないだろうか。
「僕は、自分が大きくなるより、神聖ローマが大きくなる方が楽しみだなー」
「そうか?」
「夢で見たみたいに、お姫様抱っこしてほしいんだ」
それくらい、今でもできる。そう言いかけたが、自分の腕力を思い出し、やめた。貧弱な自分が情けなくて少しだけ泣きそうだ。
イタリアはこんなに楽しみにしてくれている。……その期待を裏切るわけにはいかない。
両手を彼女の肩に乗せ、まっすぐに眼差しを注ぐ。
「イタリア!」
「えっ、なっ、なに?」
「いつか必ず、お姫様抱っこでもおんぶでもなんでもできるくらいたくましい男になる! だからそれまで、待っていてくれ!」
「待つのはかまわないけど、急にどうしたの?」
「約束だからな!」
「う、うん」
善は急げだ。さっそくランニングをしてくることにしよう。
だが、その前に。
「この絵、もらっていいか?」
「うん、いいよー。あげる」
紙を慎重にくるくると巻いて、胸に押し当てる。
未来に描かれる彼らの肖像が、これとほとんど同じだったらいい。……ただし、貧弱な体格はがっしりしたものに変えて。
走り出したその行き先は、未来。
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10/07/31 初出(お手紙企画)
10/10/01 再録