ひととせの邂逅
星屑がまたたいて、心が揺れた。
今日は一年に一度だけの、愛しい人に会える日。カササギが向こう岸まで連なって、橋を架けている。
だけど、どんなに目を凝らしても、私の愛する人――ローデリヒさんの姿はちっとも見えなかった。
泣きそうになって、頭を振る。
夫婦なのに一年に一度しか会えないのは、私と彼がお互いに夢中になりすぎて、それぞれの仕事を放り出してしまったせい。
その罰として、私たちは天の川の岸と岸に離されてしまった。つまりは自業自得なんだから、泣いちゃいけない。
だけど、淋しいと思うのはどうしようもない。私は毎日機(はた)を織りながら、ときおり手を止めて、ため息をついた。最後に会った日に見た紫の瞳、茶色を帯びた髪が記憶にまとわりつくから。
一年は長い。少しずつ記憶の姿はおぼろげになって、かすむ。それを補うように、七月七日がやって来る。
その間に気持ちも変わってしまっていたらどうしよう。誰だって、たまにしか会えない人よりも近くにいる人がいいに決まってる。
まだ彼の姿は見えない。不安で不安で、この胸は壊れてしまいそう。
――もう、終わりにするべきなのかしら。
私はローデリヒさんしか愛せないけれど、それに付き合わせていいのかな。考えれば考えるほど分からなくなる。
もしかしたら、ローデリヒさんはもう別れるつもりなのかもしれない。だから来ないのかな。
彼がそう決めたなら、それでもいい。だけど、せめて今日くらいは会いたかった。最後だとしても、それでもいいから。
気持ちがまとまらない。
岸辺に背を向けて座りこんだら涙が出た。拭く気も起こらない。天の川に流れて、星になってしまえばいいのに。
頬に温かいものがふれて、涙をぬぐう。慌てて振り返ると、焦がれてたまらなかった人がいた。
「エリザベータ、すみません」
さんざん「別れる」とか考えたくせに、心は単純だった。なにも考えずに、ひたすら一年ぶりの感触を抱きしめる。せっかく拭いてもらったのに、また頬がぬれる。
「会いたかった……! なんで、なんでこんなに遅いんですか!」
責めるようなことを言ってしまう。それだけ好き。私、こんなにワガママだったかな。
「それは……道に、迷って、いて」
彼の声が尻すぼみになる。すみません、と謝られて、いいえ、と首を振った。
「ただ、怖かったんです。もう、私に会いたくないのかな、って思って」
すると、ひたいを軽く叩かれた。たしなめの口調で、眉を軽くつり上げる。
「そんなことありえません。私の気持ちを疑うんじゃありません、お馬鹿さん」
本当に、私はどうかしてた。こんなに好きなのに、想われているのに、別れるなんて。
「そうですね、ごめんなさい」
よく顔を見せてください、と言われた。涙を拭いて顔をあげる。私だって彼を瞳に焼きつけたい。
「綺麗になりましたね」
真顔で言われると照れくさい。
「……会うたびにそんなこと、言ってますよ」
「会うたびに貴方が綺麗になるからです」
髪をそっとすかれて、頬を包まれる。彼につかまって、背伸びをした。ゆるくまぶたを閉じる。
一日だけの邂逅を一年に引き延ばすキスが、もうまもなく、やって来る。
↑特殊系目次に戻る
↑小説総合目次に戻る
09/07/07 初出(ブログ)
09/07/31 改稿再録