女心と天の川



 一年ぶりに会ったっていうのに、リズときたら全く可愛げがない。
 会うなり「遅い。女を待たせないで」とにらまれたくらいだ。泣きながら抱き合う感動の再会なんてありゃしない。
 天の川のほとりを歩いていても、ずっとムスッとした顔をしているし、会話にも乗ってこない。目を合わせようとすらしない。
 俺、なんかしたか? と自問しても、思い当たりがなかった。そりゃそうだ、一年の間ずっと音信不通なのに、なにかできるわけもない。
「なにキレてんだ」
「別に。なにもないわよ」
 いや、絶対なんかあるだろお前。
 あーもー、女って分かんねえ。女心を理解するより、天の川の星を数える方がよっぽど楽だ。答えがあるわけだし。
 そのくせ、肩を抱き寄せても嫌がらない。むしろ甘えるようなしぐさすら見せる。ホンット、女と男ってのは、人類であること以外の共通点がない。
 変にぎくしゃくしたまま、一発ヤるどころかキスもできない内に時間がすぎて、そろそろ帰る時間になった。
 それを言ったらリズはうつむいたけど、本当は内心、喜んでんじゃないだろうか。
「あばよ」
 橋に足をかけて、別れを告げた。詩的なさよならなんかない。
「ばいばい」
 返事はあっさりとやって来た。まあ一年に一度しか会えないんだから、夫婦とか言ったってこんなもんか。
 なんだかもの淋しい気持ちになりながら橋を渡っていたら、後ろからどたばたやかましい足音。
「なんだぁ?」
 振り返るとリズがいた。こいつ、橋を渡ってきやがった。
「お前、何して……自分のところに戻れよ!」
「来年も来るわよね!?」
 息せき切って問われる。ようやく見ることのできた瞳は、まっすぐに俺を見ていた。
「え」
 意味分かんねえ。一緒にいるときはあんなに不機嫌そうだったくせに。
「お前、俺に会っても嬉しくないんだろ」
 つい、突き放すような口調になってしまう。言ってから後悔するなら、最初から言わなければいいと思うが、いつもそこまで考えが至らない。
「そんなこと、ない」
 傷ついたように視線を揺らす。ここまで見て、ようやく悔いるのだ。そしてまた、過ちを犯してしまう。
「だったら、なんであんな態度」
 リズはぐっと詰まった。それから顔をそむける。川の流れに消えそうな小声で言った。
「別れるのが、つらいから」
 それは俺だって同じだ。だからこそ楽しくやろうとしたのに、ぶち壊したのはお前だろ。
「どんなに楽しくても、また会えるのは来年だから。……だったらいっそ、楽しくない方がいいのかな、って」
 女の思考って、複雑怪奇。
「……バカだな、お前」
「『バカ』ってなによ!」
 細い身体を抱きしめた。きゅ、と握り返す感触がある。小刻みにふるえていた。
「安心しろよ。来年、また来るから」
 なぜか笑みが浮かぶ。背中をそっとさすった。こんなに弱々しい身体で、別れも悲しみも受け止めている。
「絶対よ。破ったら、フライパン持ってそっちに殴り込みに行くから」
 とことん素直になれない俺たち。ギリギリになってようやく、自分をさらけ出せる。
 だから愛しい。一年の間、会いたくて会えないつらさも我慢できる。
「またな」
「……うん」
 柔らかくてまるい頬に口づける。唇は、来年のために残しておいた。


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09/07/07 初出(ブログ)
09/07/31 改稿再録