お揃いにしましょう
よく晴れた日曜日の昼下がり。家にいるのはもったいない気がして、街をぶらついた。薄手の服を着ても汗ばむくらいの陽気だ。
お気に入りの店で、服やアクセサリーや雑貨なんかを見ているだけでも楽しい。自然と笑顔になる。
「お姉さん、見て行ってよ」
道路に布を敷いただけの露店商に声をかけられて、立ち止まる。
かがんで見てみると、手作りの携帯ストラップを売っていた。どれもこれも丸っこくて、手作りの雰囲気があって可愛い。
そういえば、携帯に着けてる今のストラップはもうボロボロだからそろそろ変えようと思っていたんだった。ちょうどいいからここで買って行こう。
手に取って悩んでいると、「おい」と聞き慣れた声。
「ギル」
なんでここに。呆気に取られてしまう。
「ぶらぶらしてたら見かけたから」
ああ、つまりこいつも同じ穴のムジナってわけね。みんな考えることは一緒か。
「なに見てんだ?」
そう言って私の隣にかがんだ。見かけの割に案外可愛いものに弱い彼は、並んでいるストラップを見るなり目を輝かせる。
「スゲー」とか「これが手作りなんてマジかよ」とか、ストレートに褒められて露店商の男性も気をよくしたらしく、
「三つ買ってくれたら、一つ分はタダにするよ」
なんて言ってくれた。いつもうるさいこいつも、たまにはいいことをする。
「悩むぜー」
「男のクセに優柔不断なんだから。このクロスにしたら?」
いつも(そして今日も)着けてるネックレスに似たのを指差す。でも、それは今のストラップと同じものだから別のにしたいらしい。
「じゃあこれは?」
可愛いものが多い中で異彩を放つ、リアルな骸骨のストラップをつまむと、嫌そうな顔。
「お前、俺に恨みでもあるのか」
「そりゃあもう、たっぷり」
付き合いはむやみやたらに長いから、恨んでることは数えきれないくらいある。
「最後まで残しておいたショートケーキのイチゴを食べられたこととか、ね」
「あのあと、新しいの買ってやっただろ……。んなもん忘れろよ」
がりがりと頭をかいて、話をごまかすように彼は物色を再開した。
「お。これ、いいかも」
「なになに?」
手元をのぞきこむ。左向きのヒヨコの形に鋳造されたシルバーだった。目の部分には小さなガラスが入っている。
「ペアもあるよ」
男性が取り出したのは右向きだ。向き以外はギルが持ってるのとまったく同じに見える。
「おー、スゲー! じゃあ俺、これにする」
ペアのものを一人で買うなんて、アンタ、どんだけ寂しい人間なのよ。そう思ったけど、口に出すのは不憫に思えて自重した。
私はというと、迷った末、色んな大きさの星がたくさんつながっているものにした。揺れるとシャラシャラと音がするのが流れ星みたいで綺麗だから。
お財布を探していたら、ギルがさっさと払ってしまった。行くぞ、と腕を引っぱられる。
「私、自分の分、払うわよ」
「気にすんな。俺が買ったらお前のがおまけでついてきただけだ」
「でも」
「どこの世界に女から金をもらう男がいるんだ」
不覚にも、ちょっと言葉を失った。少し頬が熱い。
「……カッコつけしい」
「なに言ってんだ、俺様は本当にカッコいいんだよ」
「バーカ」
もう、おかしいったらありゃしない。くすくす笑いながら、つかまれたままの腕に導かれた。仕方ないから、しばらくはそのままにしておいてあげる。
歩くうちに公園に着いて、ベンチに座った。なんだかデートみたい。買ったばかりのストラップを二人で付け替えてたら、ギルが私の手を取った。
そして、手の平になにかが乗る。……さっき買ったばかりのヒヨコの片割れだ。
「やる。やっぱり二つもいらねえ」
「なに? 私にアンタとお揃いのストラップ着けろって言いたい?」
意地悪く問うと、ギルはむっとしながらも、ちょっと顔が赤くなる。
「……悪いかよ」
最初からそのつもりだったんだろうとは、なんとなく予想がついた。昔からそうだから。言葉に出すのが下手くそで、おまけに意地っ張りだから、いきなり行動で押しつけてくる。
「お断り。みんなに笑われちゃうわ」
そう言って、ストラップを目の高さで揺らした。
「じゃあ返せよ」
彼が奪い返そうとする前に、ひょいと握りこむ。
「でもしょうがないから、お財布に着けとくわ」
「……可愛くねえやつ」
「うっさい」
意地っ張りね。お互い様。そんなところ、お揃いじゃなくてもいいのに。
――ねえ、心がお揃いになるのは、いつ?
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10/01/01 初出(年賀状企画)
10/02/15 再録