だれもしらない



 俺は、ナターリヤちゃんの恋人だ。
 ……そのはずだ。そうだと思う。そうであってほしい。
 少なくとも、ただのクラスメイトではないと思う。朝は毎日一緒に登校して、昼は一緒にご飯を食べる。放課後には俺の家に行くのが、もう習慣になっている。そして、健全な男女が二人きりになってすることなんて、……まあ、一つしかないわけで。
 ベッドの端に座ってる俺の膝の上にまたがってるナターリヤちゃんと、制服のままキスをする。それももう、舌や唾液を交え合う濃厚なやつを。ただのクラスメートなら、こんなことしない。絶対。
「……休ませろ」
 胸を押されて、長いキスが途切れる。濡れた唇をなめる舌が赤い。さっきまでそれと自分のものを絡ませてたんだと思うと変な感じがする。
「トーリス」
「っうゎ」
 返事の代わりに、情けない声がもれた。彼女の手が、半分くらい立ち上がった俺の分身をつかんだから。
「キスくらいでふくらんだのか」
「これは、その、」
 言葉に詰まると、ニィ、と唇の端を上げる。意地悪く目を細める。
「これを私のなかに突っこんで、溜めこんでたのをぶちまけたいのか?」
「……」
 こういうとき、思う。俺は、本当にナターリヤちゃんの「恋人」なのかな、って。
 なんというか、誘ってじらして、みっともない姿を見たいだけなんじゃないかとか、そう思うことがある。割とよく。逆らえない俺も俺だけど、わかってて聞いてくる彼女もどうなんだろう。
 だってさ、生理とか気分が悪いとかどうしてもしたくないとかならともかく、なんにもなくて体調もよくてそういう気分になってるなら、本来の場所に入れて出すものは出したいと思うよ。俺だって男だし。
 でもやっぱり、ナターリヤちゃんには逆らえない。惚れた弱みってやつなんだろうなぁ、って他人事みたいに思う。
「いつも、なにをオカズにして抜いてるのか言ってみろ」
 白い手のひらでゆっくりと形をなぞられて、硬度が増してゆく。そっちに奪われそうになる意識を、無理矢理引きはがした。
「もちろん、ナターリヤちゃんだよ」
「嘘だ」
 ぴしゃりと断定して、彼女は俺をのぞきこんだ。視界いっぱいに彼女の可愛い顔。
「本当は姉さんやエリザベータにパイズリしてほしいんだろ? それとも野郎か? フェリクスに掘られたいのか?」
 その目をぎらぎらと輝かせるものを指して、多くの人がなんて呼ぶのか俺は知ってる。おそらくは――狂気。
 だけど、きっと誰も知らない。
 いびつな黒い光の奥には、膝を抱えてうずくまってるナターリヤちゃんがいる。女の子らしくもない卑猥な単語を吐きながら、自分をも追いつめて、救いをほしがってる。
 俺だけが知っている。誰も知らないままでいい。俺だけしか自分を救えないと知っている彼女の孤独。俺だけが彼女を癒す方法を知っていればいい。
「なんとか言ったらどうだ、短小野郎」
「俺のが小さくないこと、ナターリヤちゃんがよく知ってるくせに」
 思わず詰まってしまう、そんな素直なところが好きなんだ。内股を俺の太ももにこすりつけてくるいやらしいところも。興奮ぎみにもらす熱い息が扇情的だって、自分で知っているんだろうか。
 ああ、なんて可愛いんだろう!
「ナターリヤちゃん」
「なんだ」
「愛してる」
「……本当か?」
 うなずく。泣きそうな顔をしてるから、そっと頬を包んだ。冷たくてつるりとして、氷みたいだ。
 だけど内側は熔鉱炉みたいに熱くてとろけて、すごく可愛い――俺の恋人。
「私とセックスしたいか」
「したいよ。ナターリヤちゃんとだけ」
「……私に棒姉妹がいたら殺すからな」
 そう言いながら俺の首に噛みついて痕を残す。俺も鎖骨のあたりをきつく吸ってお返しをして、白いシーツに押し倒した。


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10/03/02 初出(ブログ)
11/06/21 改稿再録