三人めは裏切る
※ソ連時代、プロイセンとハンガリーがロシアの家にいたという捏造設定です
凍りついた土にシャベルを突き立てる。てこの原理で掘ろうとすると、古びた木の柄が嫌な音を出す。ラトビアはかすかに眉をしかめた。
共に「おしおき」を課せられた二人、プロイセンとハンガリーのものはどうなのだろうとうかがって、どうやら一番古いものをあてがわれたらしいことを知る。
半ば当然だと感じる心は無感動だ。穴を掘っては埋めて、を繰り返す「おしおき」は気だるく心身を削る。
『どうして三人でやるのか、知ってますか』
ゆがんだ笑みで言ったのはエストニアだったと思う。リトアニアが首をかしげ、その理由を問えば、抑揚のない声が答えた。
『二人一組では結束してしまいます。ですが三人なら、一人が裏切るものですから』
余るのが自分であることを、ラトビアはよく分かっていた。いつだってそうだ。仲間も友人もいた試しがない。
乱暴に掘り起こそうとしたのがいけなかったのか、ついにシャベルの柄が折れてしまう。反動で尻もちをついた。
立ち上がる気力は、ない。
「大丈夫?」
ハンガリーが心配そうにのぞきこむ。プロイセンはシャベルから手を離さないまでも、こちらを気にかけているようだった。
「あらら、これじゃ使えないわね」
ラトビアが握ったままの、先のない柄を見て彼女は笑った。
一体なにがおかしいんだ、とうなじが焦げつくようないらだちが芽生える。馬鹿にされたような気さえした。
「休んでていいわよ。私がラトビアちゃんの分もやるから」
刺さったままの金具を引き抜こうとする手を押さえる。
「大丈夫です」
「でも」
気づかうような表情に、だまされはしない。その下ではきっと嘲笑を浮かべているのに違いない。
「僕が仕事をなまけたって、ロシアさんに報告するためですか」
彼女は息をのんだ。青ざめた顔は寒さのせいだろう。
「そんなことしないわ。私はただ、」
見えすいた言葉はうんざりだ。だまされるほど子どもではない。
「僕だって、貴方が僕の仕事を奪ったとロシアさんに告げ口するかもしれないんですよ」
「……」
はっきりと彼女の顔色が変わった。唇が引きつって、ふるえている。プロイセンは黙ったままだ。
「ソビエトで、馴れ合いなんて無意味です」
二人は知らないのだ。雪と氷に閉ざされたこの国の底にある、本当の冷たさを。
そのお気楽さが許せなかった。自分たちのやり方が真実だと信じている気配が疎ましい。
傷つけてやりたい。壊してやりたい。踏みにじってバラバラにして、そうできたらどれほど胸がすくだろう。
傷つけられた痛みを、吐き出すように二人にぶつけてやりたい。胸の内に溜まって澱(よど)む理不尽さや怒りを思い知ればいい。
唐突に、動かなかったプロイセンが動いた。殴るならそれでもいいと、棘だらけの神経を張り巡らせる。
だが、彼は頭をなでただけだった。指先がかじかむのか繊細な動きではなかったが、確かにいたわりの気持ちを感じた。
「ガキのくせに、生意気なこと言ってんじゃねえ」
「……」
「ガキはガキらしく、のんきに甘えてろ」
そうよ、とハンガリーもうなずいた。顔色は元に戻っている。
「私たちはラトビアちゃんのことが心配なだけだから、怖がらなくていいの」
愚かだと思った。この地が秘めているおぞましさをなにも知らずに、自ら首を絞めている。
本当に、愚かだ。バレたらきっと、倍以上の「おしおき」を課せられるのに。人のことを心配するくらいなら、自分を気にかけるべきなのに。
三人では心を共有できない。きっと誰かが裏切る。おそらくは、ラトビア自身が。
再びシャベルを動かしはじめた二人を見ながら、ただ、白い息を吐き出し続けた。
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09/11/18 初出(ブログ)
09/11/19 改稿再録