倉庫のお掃除



 倉庫を掃除しなさいって、言われた。オーストリアさんに。僕だけじゃなくて、ハンガリーさんも一緒。
 重くてぎしぎしする扉を二人でなんとか開けて、窓をひらいたら、ほこりが雪みたいにキラキラしてて、すごく綺麗だった。そのあと、ものすごいセキが出たけど。
 倉庫には古い書類とか、壊れた家具とか、ボロボロのシーツとかがいっぱいあった。もう何十年も整理してなかったのね、ってハンガリーさんは呆れてた。
 あんまりたくさん物があるから、ちょっぴり圧倒されたんだ。僕は本当に片づけることなんてできるのかなって不安になったけど、ハンガリーさんの方は、逆にすごくヤル気が出ちゃったみたい。髪をポニーテールにして、気合いを入れてた。
 はたきでほこりを落としたら雑巾で箱を拭いて、中身を調べて、紙に書いて貼りつけるのが僕たちの仕事。ちなみに、真ん中から右側半分の担当がハンガリーさんで、残りが僕。
 やってることは簡単だから、おしゃべりしながらやった。そうでなきゃ、飽きちゃうから。
「お腹空いたよー……」
 つぶやいたら、くすくす笑う声。
「もうちょっとがんばって。……あっ、そういえば、今夜の夕食はパスタらしいわ」
「ホント!?」
「ええ。早く終わらせたら、早く食べられるわよ」
「分かったー!」
 やったぁ、パスタ大好き! 僕、頑張る!
 一生懸命やってたら、ハンガリーさんがいきなり「イタちゃん」って僕を呼んだ。なんだろう?
「どうしたの?」
「見てみて、これ」
 ハンガリーさんが取り出したのは、ずっと昔に流行ったドレスだった。元々は白かったんだろうけど、黄ばんじゃってる。
 それを身体に当てて、ハンガリーさんはくるっと回った。すそがぶわぁって広がる。
「『ダンスはいかが?』なんてね!」
「すごいすごい!」
 パチパチ拍手してたら、手が箱にぶつかって、中身が落ちそうになった。慌ててキャッチしたら、小さな笛。
 吹けるかな、って試してみたら、ちゃんと音が出た。だから、ワルツのメロディを演奏したら、ハンガリーさんはそれに合わせてくるくるする。
「こんなのもあったのよ」
 小さな太鼓を取り出して、とんとん叩く。僕がリズム通りにステップを踏んでたら、どんどん速くなる。最後は足がもつれて転んじゃった。
「ごめんね、大丈夫?」
「へーきだよー」
「よかった。ね、他にも楽しそうなの、探してみない?」
「うん、やる!」
 他にも、昔のおもちゃとか、キルトとか、剥製とか、いっぱい出てきた。仮面を当てて悪魔のフリ。ボールを投げ合いっこしてキャッチボール。
 箱の底から眼鏡が出てきたからかけてみたら、ハンガリーさんが「オーストリアさんみたいね」って言った。
「私はオーストリアですっ」
 ものまねをしてみたけど、全然似てないのは自分でも分かった。なんでだろう。
「その眼鏡、貸して」
「どうぞ」
「えー……こほん」
 ハンガリーさんはしかめつらになって、腕を組んだ。それで、息を吸って。
「お馬鹿さんが……」
「わあ、すごいすごい! そっくり!」
「ううん、今のは私じゃなくて……」
 いつの間にか、倉庫の入り口に誰かが立ってた。怖い顔をして僕たちを見てる。
「オーストリアさん!?」
「掃除はどうしたのですか」
 ……忘れてた。途中からふざけるのに夢中になっちゃって。
 二人で黙ってたら、オーストリアさんの大声。
「このお馬鹿さんが! 罰として、夕食の間はバケツを持って廊下に立っていなさい!」

「ご飯ー……。パスター……」
 おいしそうな匂いがすぐ近くでしてるのに、食べられないなんて。ベソをかいたら、ハンガリーさんがごめんね、って言った。
「私がふざけちゃったから」
 ううん、って頭を振ったらバケツの水がはねた。重いしお腹空いたなぁ。
「あら? ……うふふ」
 ハンガリーさんはなにかに気づいて、急に笑い出した。僕を見ると、笑ったまま言った。
「イタちゃん。もしかしたら、パスタ、食べられるかもしれないわよ」
「え? なんでなんでー?」
 もしかしてパスタが飛んで来るのかなぁ。きょろきょろしたら、廊下の端っこから、黒い帽子がちょこんとのぞいてた。


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「Nox」の夜弦さんに捧げます。
ご希望は「ハンガリーとちびたりあで日常の一コマ的なお話」
10/01/20