プラスアルファで朝食を



「……え?」
 今、なんつった?
 朝食が始まってすぐの彼女のセリフはちゃんと耳に入っていた。意味も分かった。それでも、理解には時間が要りそうだ。
 呆然とする俺をよそに、ジャンヌは焼きたてのトーストにたっぷりバターを塗って、一口かじった。さくさくした音がおいしそうだ……って、そうじゃなくて。
「身に覚えがないわけじゃないでしょう」
「覚えならたっぷりあるけどさ……」
 これでもかってくらいだ。むしろ、今までこうならなかったのがおかしいほどに。
 だけど、……うん。
「なら、どうしてそんなに驚くの?」
 彼女は本当に不思議そうな顔をして首をかしげる。ええと、となんとなく目をそらして、とりあえずコーヒーを飲んだ。やっぱり淹れたてがうまい。……だから違うって。
「もしかして、嬉しくない?」
 藍色の瞳がくもった。慌てふためくばかりの自分が嫌になる。髪をかきむしって、なんとかいつもの調子を思い出す。
「嬉しくないわけがないさ。だから、困ってるんだ」
 いつかは、と思っていたことだけに、嬉しさが大きすぎて、どうしたらいいのか分からなくなる。
「ごめん、俺、実は結構テンパってるのかも」
「もう、落ち着いてよ」
 彼女は機嫌を直して、くすくすと笑った。その様子にほっとする。白くて小さな手を引き寄せて、俺のもので包む。
「ありがとう」
 一瞬、彼女は息を詰めた。ゆっくりと数回まばたきをすると、まっすぐに俺を見つめてくる。頼りになる男として映っていればいいんだけど。
「お礼を言われる筋合いじゃないわ」
「言いたいんだ。言わせてくれ」
 おかしな人ね。何度も言われた言葉が、ひたすら耳に心地いい。
「貴方がそう言うなら……どういたしまして、かしら」
 そう言って浮かべる笑みは、もう母親のそれに見えた。


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10/01/06 初出(ブログ/ジャンヌ誕生日)
10/01/28 改稿再録