内容について



学ヘタの学園祭でリトアニアたちのクラスは『雪の女王』を演じることに。ベラルーシは雪の女王役に選ばれるが、非協力的な態度がクラスメイトの反感を買い、孤立していく。
そんな彼女を唯一かまっていたリトアニアだが、ポーランドとベラルーシの会話を聞いてしまう。
――「お前のこと、本気ですきなんよ」

守屋さん(Collie)が表紙を描いてくださいました!




サンプル



 練習がはじまってから、もう一週間。
 ベラルーシちゃんが演じる雪の女王は、タイトルにもなってるのに割と出番がない。カイも。そういう話だからしょうがないんだけど、ゲルダがずっとでずっぱりだ。
 だから台本を作るにあたって、話に手が加えられたらしい。俺は大道具担当だから詳しくはわからないけど、ゲルダの旅と、雪の女王の城に囚われたカイを交互に見せるスタイルになるそうだ。
 それでもそんなに台詞があるわけじゃない。ロシアさんについての詳細なデータを網羅してるベラルーシちゃんなら余裕で覚えられるくらいの量だ。おしゃべりな雪の女王ってなんだか変な感じがするからそれでいいと思うけど。
 ……そのはずなんだけど。
氷の文字遊びでお前はなにを表そうとしているんだ
わからないよ。でもきっとあるはずなんだ
 今練習してるのは、氷の玉座の足元に座りこんでるカイに雪の女王が話しかけるシーンだ。
 ラトビアは案外記憶力がいいから、もうなにも見なくても台詞を言えるようになった。小刻みに震えてるのは演技じゃなくて素だろうなぁ……。
 俺も、ベラルーシちゃんの前に立つとどきどきして緊張するもん。指も色んな方向に曲がりだすし。
もしお前がそれを表せたら、きっとお前の身体は自由になるだろう。そのときは、私はお前に世界全部と新しいそりぐつをやろう
 対するベラルーシちゃんは、台本を見ながら台詞を棒読みしている。それだけじゃない。ものすごくやる気のない表情や態度も隠さなかった。
「今からこれで、ちゃんと演技してくれるのかな……」
「っていうかバックレの心配した方がいいかも」
「さすがにそれはないんじゃない?」
 練習をながめていたクラスメイトたちがひそひそとささやく。お祭り騒ぎで盛り上がろうとしているクラスの中で、ベラルーシちゃんは、……はっきり言って、浮いていた。

* * *

「ありがとうね、リトアニアちゃん」
 ウクライナさんが近づいてきて、そう言った。
「いえ、そんな」
 条件反射で答えて、それから目が行くのは、ウクライナさんの場合は顔じゃなくて胸だ。
 俺はベラルーシちゃん一筋だし他の女の子と付き合おうなんて考えたことはない。ないけど、やっぱり健全な男子だから、ウクライナさんみたいな巨乳には目を引かれる。なるべくそこじゃなくて顔を見るようにはしてるけど。
 そこでふと気づく。
「……え、なんのことですか?」
 なんで俺はお礼を言われてるんだろう。ウクライナさんになにかしてあげた覚えはないんだけど。というか、ロシアさんが怖いから関わることもそんなにないし。
 ?を浮かべてる俺を、ウクライナさんは首をかすかにかたむけながら見上げる。
「ベラルーシちゃんにやさしくしてくれてるでしょう?」
「あ、……ああ」
 そのことか。納得すると同時に、なんだか意外だった。
 時々、年下に見えるぐらいうっかりなところもあるウクライナさんも、ちゃんとベラルーシちゃんのお姉さんで、妹のことを見てて考えてるんだ。
 ……なんて、絶対口に出せないことを思った。ラトビアなら言っちゃうんだろうけど。
「誰かに頼まれたの? エストニアちゃんとか」
「いえ。俺が勝手にやってるんです」
「そうなんだ」
 ウクライナさんは目をみはって、それから微笑を向けた。ついこっちまでにやけてしまいそうなほど可憐に。
「それなら、ますますありがとう」
「いえ、そんな」
「私、ずっと心配だったの。ベラルーシちゃんのこと。ほら、ベラルーシちゃんって、ロシアちゃんのことしか見てないでしょう?」
「……そうですね」
「それに人付き合いが上手じゃないから、集団から浮いちゃうことが多くて……、でも、私があんまりべったりしちゃうのもよくないかなぁって……」
 胸の前で手を合わせて、上目遣いで俺を見る。俺にはベラルーシちゃんがいるのに、ちょっとどきっとするほど色っぽいしぐさだ。他の男子ならきっと、本命がいてもころっといっちゃうんだろうなぁ。
「でも、リトアニアちゃんがいてくれてよかった。これからもベラルーシちゃんのこと、お願いね」
 これって、つまり。
 家族公認……だよね? だよね!?
 一気に頭がお祭り騒ぎをはじめる。心臓がどくどくと暴れる。感極まりすぎてなんだか泣きそうだ。勢いに任せてウクライナさんの手を取った。
「きゃっ」
「お願いされました!」
「う、うん、よろしくね」
「はい!」

* * *

 ……本当のこと言うと、俺はちょっぴりうぬぼれてたんだ。ただの自己満足なのに、ベラルーシちゃんのためになにかをできたような気になってた。きっとベラルーシちゃんは、そんなことお見通しだったんだろうなぁ。
「……ベラルーシちゃんが言ったこと気にしちゃだめよ」
 なんで俺の思ったことがわかるんだろう。女の勘かな?
「ベラルーシちゃんは、なかなか人を信用しない子なの。私やロシアちゃんは違うみたいだけど」
「はい」
「いっぱいひどいことを言われたりされたりされるかもしれない。だけど、あきらめないで」
 真剣な瞳が俺を見つめる。その色は、どこかベラルーシちゃんに似ていて、苦しくなる。
「たぶん、試してるんだと思うの。リトアニアちゃんが本当に信じられる人なのか」
「……」
「だから、つらいかもしれないけど、がんばって。ひどいこと言ってるのはわかってるけど……お願い」
 心は決まっているのにどう答えたらいいのかわからない。どんな言葉も薄っぺらいような気がして。
 だから俺はただうなずいた。それしかできなかった。
 自分から進んで傷つきたいとは思わない。だけど、それがベラルーシちゃんのためなら、俺は。

* * *

 ちっともわからないけど、できたらいいなとは思う。
 そう思いながら歩いていたら、まさしくベラルーシちゃん本人の姿が見えた。普段は使われていない非常階段にいる。一人じゃなかった。ポーランドと向かい合ってなにか話をしている。
 二人の組み合せを意外に思いつつ、声をかけようとした。だけど。
「お前のこと、本気ですきなんよ」
 めったにないほど真面目なポーランドの声が聞こえて、俺は固まった。言葉の意味はすぐにわかったはずなのに、おかしな間を置いてから心臓の鼓動がうるさくなる。二人に聞こえてしまうんじゃないかと心配になるくらい。
 どういうこと? ポーも、ベラルーシちゃんのこと……。
 足元を注意してたら頭上に落ちてきたみたいな、あまりにも予想外の場所からの衝撃に頭がついていかない。ベラルーシちゃんの冷静な声がさらにとどめを刺す。
「知ってる」
 足から力が抜けて、壁に背中をもたれた。
 ポーランドとベラルーシちゃんは付き合ってたんだ。きっとずっと前から。


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