内容について



連合王国だった十五年の間に、兄妹でありながら肉体関係を持っていたベルギーとオランダ。
しかし、ベルギーの独立と共に彼らの関係は終わりを迎える。
現在はその過去を封印して「普通の兄妹」を演じていた二人。
だが、結局は元の関係に戻ってしまう。
しかし、それが自分の大事な人々を苦しめると気づき、二人は再び別れを選ぶ。
それから数年後……。

兄妹の性行為(近親相姦)の描写があります。
ロマーノが話の中核に絡んできますが、CP描写はありません。
暗い感じの話ですが最後はハッピーエンドです。
てょさんが表紙を描いてくださいました!



サンプル



 カーテンが半分だけ開けられた窓から、夜明けの青い光が射しこむ。まだ闇が大部分を占めている部屋にある家具は、ベッドだけだった。
 そこには男女がいた。
 一糸まとわぬ姿の二人は、情交の真っ最中だった。
「っ、あっ、んっ……!」
 白いのどを反らし、ベルギーは声を漏らす。快楽に耐えられず、爪先でもがいてシーツを蹴る。
 オランダの男根を受け入れている秘所は、彼女自身の愛液と、すでに何度か放たれた精液が交じり合い、白濁にまみれていた。動くたびに濡れた音が立つ。
「……っ、ぐ……」
 握られている手に力がこもる。それに応えて、ベルギーも飛んでしまいそうになる意識の中で握り返した。それから、オランダの大きな身体を抱きしめる。汗で濡れた肌がぴたりとくっつく。
 それは、絶頂がほどなくやって来ることを伝える合図だった。明確に取り決めたわけではない。いつの間にかできていた習慣だ。
 他愛もない行為だ。だが、二人には大事だった。それを作り、守ることで、二人の絆を確かめ合っていたのだ。
 閉じそうになるまぶたを必死でひらいて、ベルギーは薄暗い視界の中にオランダを見つける。
 上気した顔と身体。ひたいにはいくつもの汗の珠が浮いている。律動で、癖のある髪がゆらゆらと揺れる。
 彼の瞳は、激しい情動が渦巻いて、焦点があいまいだった。だが、それでも、執念のように彼女を捉えている。なにもかもを見透かされているようで、快楽とは違うふるえが彼女の身体を走った。
 ――お兄ちゃん。
 いとしい。誰よりも。なによりも。
 彼さえいれば、他にはなにもいらない。
 そう思ったことがあるのは、間違いなく真実だった。
 ……だが、……もう。
「……っ」
 もうこれ以上は目の限界だった。まぶたを閉じると涙がこぼれる。身体をむしばむ快楽は、すべて拷問のような責め苦に変わってしまっていた。
 二つの身体の間を、熱が行き来している。けしてひとつの身体にはなれない代償のようだ。
「ぁっ、っ、あ、ん、……っん!」
 ひときわ鋭い快楽と苦痛が彼女の身体を駆け抜けていく。少し遅れて、浮遊感に包まれた。
「う……」
 オランダは喉の奥でうめき、腰の動きをとめた。少しの間を置き、再び腰を揺する。
 ――うちのなかに、お兄ちゃんのが流しこまれとる。
 見えるはずのないその光景をぼんやりと想像する。たとえ幾億のそれが胎内を犯そうとも、実を結ぶことはない。
 そうわかっていても、自分の身体が欲望の受け止める器になったことに、歓喜がこみ上げる。そして同時に、言いようのない不安に襲われる。
 オランダが息を吐いて呼吸を整え、自身をベルギーから引き抜いた。もうそこにはなにもないのに、まだ「彼」の感覚が残っている。長時間かつ何度も入れられていたせいで、開ききって、閉じなくなってしまったのかもしれない。
 ――うちの身体、お兄ちゃんだけのためにあるみたい。
 ベルギーは自分の下腹部に手を当てた。次から次へとあふれる涙をもう片方の手で力任せにぬぐう。
 泣いてもなにも解決しない。自分の意志は、自分の口から伝えなければ届かない。
「……なんで泣いとるんや」
 オランダはようやく、ベルギーが泣いていることに気づいたようだ。目じりをこすっている彼女の手をつかむ。
「ほんなにしたら、赤うなるわ」
 オランダの舌が、涙を舐めとる。摩擦で熱くなった肌には、舌の温度がぬるくて心地がいい。
 ――ずっと、ひたっていられたらええのに。
 甘い誘惑がベルギーを誘う。なにをためらうことがあるのかと、意地を張る方が愚かだと笑っている。
 ――せやけど、うちは。
「……大丈夫や」
 ベルギーはオランダの身体を押しのけた。眉を寄せる彼の視線を感じながら、ベッドに手をつく。
 身体を起こそうとしたのに、絶頂を迎えたあとの身体には、重い倦怠感がまとわりついている。自分の身体なのに思うようにいかない。
「無理はせんときね」
 もがくのを見かねたように、オランダが手を差し伸べる。だが彼女はその手を借りずに一人で起き上がった。
 ――お兄ちゃんに、これ以上、甘えられへん。
 窓からの朝日は、青からオレンジに色を変えていた。目が焼けてしまいそうなほど強烈な光だ。
 ベルギーは手間取りながらもシーツで身体を隠して、オランダと向かい合った。彼はまるで、彼女がこれから言うことをわかっているように見えた。
 唇がふるえた。また泣きたくなった。もういっそ、やめてしまおうかとさえ思う。
 だが、言わなくてはいけない。逃げるわけにはいかない。
「……もう、終わりにしたいんや。うちらのこと」
 オランダは眉間のしわを濃くした。それは明らかに不意打ちを食らったという顔で、なぜかほっとする。
「うちはもうお兄ちゃんの属国やない。独立しとる一つの国や。……セックスする必要も意味もないやん」
 ――そんなら、なんで会ったりしたんや。こうなるって、わかってたやん。
 独立してからずっと、気まずかった。言葉もろくに交わせずにいた。妹とはいえ、もう完全に愛想を尽かされてしまっているのではないかとおびえていた。
 この部屋でオランダに会うのには勇気が要った。なにを言われるのか想像がつかなかった。だが、彼は入ってくるなり、ベルギーを力いっぱい抱きすくめてキスをした。
 泣きそうなくらいうれしかった。まだ愛されているのだと安心して、その瞬間に、すべてを忘れた。
 ベッドに押し倒されて、彼女の頭を支配したのは、これから与えられる快楽への期待だけだった。抵抗などちらりとも浮かばなかった。
 どうして、本来の要件を忘れてしまえなかったのだろう。ただただ快楽に溺れて、それで今日のところは終わらせてしまうことができたなら、どれほどよかったことだろう。
「……」
 オランダは黙ってベルギーを見つめている。そのまなざしに応えることができない。目を合わせないまま、一方的にまくしたてる。それしかできない機械のように。
「そもそも、『普通の兄妹』は、キスもセックスもせえへん。お兄ちゃんかて、わかっとるやろ?」
 まるで自傷行為だ。自分の言葉で、自分を傷つけている。
「せやさかい、この機会におしまいにしよ? ほんで、そんまま忘れて、ちゃんと『普通の兄妹』に――」
「のくてぇこと言うなま」
 いら立ったような声に、びくりとふるえてしまう。
「お前を、今さら『妹』として見れるわけえんわ」
 ――うちかて、同じや。
 本当はそう叫びたかった。やっぱりやめた、気が変わったと言って放り出してしまいたかった。そして、もう一度腕の中に抱かれて、なにもかも忘れさせてほしかった。
 だが、もう賽(さい)は投げられてしまった。

     * * *

「お兄ちゃんにしか、あないなことせえへん!」
 言い切ってしまってから、はっとする。
 それでは、今でもオランダのことを「男」として見ていることになってしまう。
「っ、ちゃうねん、ちゃうねんて、うちは……」
 「普通の兄妹」は、こういうとき、どうなのだろう。
 兄妹だからこそ嫌なのか、兄妹ならそれくらい平気なのか。それが、ベルギーにはわからない。
 一度失ってしまった「普通の兄妹」の感覚は、もう二度と戻らない。必死に推測して予想して想像してみても、どこかいびつになってしまう。
「……ベルギー」
 オランダの手がベルギーの肩に乗る。目を合わせられないと思っていたはずなのに、思わず顔を見てしまう。
 緑の瞳が、微熱を帯びて彼女を見つめている。頭の中で警告音が鳴り響いているのに、そらせない。交わった視線に縛りつけられてしまう。
「俺は今も、お前を『女』として見とる」
「……そんなん、約束と違うやん」
 楽にさせて、とベルギーは言った。
 そうしてやる、とオランダが言った。
 あの日、すべてが終わってしまったはずなのに。

     * * *

「……あいつら、言ってたんだ。ベルギーとオランダは、付き合ってるって」
「――」
 一瞬にして、頭が真っ白になる。
 強く頭を打ったときのような衝撃だった。今見えているものがすべて、がらがらと音を立てて壊れてしまっていくような気がした。
「っ、な、なに言うとるん」
 あやうく放心状態になってしまうところだったが、なんとか持ちこたえる。この状況では、沈黙は肯定にしかなり得ない。黙りこんでいては余計に怪しまれる。
「えげつない話やなぁ。うちとお兄ちゃんが付き合っとるなんて、そんなんあるわけ――」
「俺だって、そう思ってた。……思いたかったんだ」
 ロマーノは落ち着かない様子で自分の手を握る。そしてベルギーをまっすぐに見つめる。
「でも、俺、見ちまったんだ。二人がキスしてるところ」
「っ、……!」
 憶測だけなら、否定できた。
 だが、現場を見られてしまっている以上、もはや言い逃れはできない。

     * * *

「……うちらのこと、終わりにしよ」
 ベルギーは、自分の感情に、自ら死刑宣告をくだした。
 彼女はすでに加害者だ。
 自分でもわからないほど多くの人を傷つけてきた。もうこれ以上、被害者を増やすわけにはいかない。
「つらいけど……自分の感情よりも大事にせなあかんこと、あるやろ」
 国として生きていくには、いくつものことをあきらめたり手放したりしなければならなかった。
 今回も、そうやって失うだけのことだ。なにも特別なことではない。
 無理やりにでも自分にそう言い聞かせなければ、撤回してしまいそうになる。
『……嫌やざ』
「嫌、って……うちの話、ちゃんと聞いとった!? お兄ちゃんにも、大事な人、いるやろ?」
『一応はの』
 電話越しのオランダの声は淡々としていて、意図や感情を読み取れない。
「そんなら、なんで……」
『お前とそいつらと、どっちか選ばなあかんなら、俺は、お前を選ぶっちゅうだけや』
 唇がふるえる。すぐには口が利けなかった。
 向けられる感情がひたむきであればあるほど、苦しさが募る。泣き出しそうになるのを必死にこらえた。泣いてもどうにもならないのだ。
『お前に独立されてから、俺がどんな気持ちでお前を見とったのか、お前はわかってえん』
「お兄ちゃん……」
『なんで二回もお前をあきらめなあかんのや!』

     * * *

「なんでうちのこと避けるんや! 確かにうちら色々あったけど、それはさすがに行きすぎとちゃう!?」
 感情が高ぶって、自分でも抑えが利かない。
 頭では理解していても、そっけない態度を取られるのはさびしい。かなしい。
 いっときは抱き合ったりキスをしたりした。その記憶をまだ引きずっている。忘れられない。元に戻ってはいけないとわかっていても。
「フレンドリーにせえなんて言わんわ、せめて普通にしてくれたってええやん!」
 黙りこんでいたオランダが、ここで口をひらいた。
「……できるわけ、えんやろ」
「なんでや! うちのこと、そないに嫌い!?」
「アホ、逆や」
「え……」
 ベルギーは耳を疑った。オランダの目を見つめてしまう。
「もう忘れたんか。俺らは、嫌い合って別れたわけやないやろ」
「……」
「俺はまだ、お前を……」
 その先は、言われずともわかった。……ベルギーも、同じだったからだ。
 後悔がある。未練がある。それがなぜなのかといえば、理由は一つしかない。
 ――うちが、まだ、お兄ちゃんを愛しとるからや。

     * * *

 ――お兄ちゃん。
 ベルギーは、自分の右手とオランダの左手の指を絡ませた。嫌がられると思ったのに、彼は強く手を握ってくる。お互いの手のひらが熱すぎて、汗をかいてしまいそうだ。
 ――なんで?
 ――なんで拒否せえへんの。そんなんやから、もっと近づきたくなるんやん。
 ワインはグラス一杯しか飲んでいないはずなのに、くらくらする。昔と同じだ。
 あのころも、一緒に踊ると、まともにものが考えられなくなった。オランダしか見えなくなった。
 禁忌など、悩むまでもなく簡単に乗り越えられるちっぽけな障害に思えた。
 あのころのベルギーは、甘美な美酒に酔っていたのだ。「愛」という名の。
 ――うちは、お兄ちゃんさえいればよかったんや。
 どうして、他にも大事なものができてしまったのだろう。大事なものが増えれば増えるほど、失う痛みが大きくなるだけなのに。
 後悔する。どちらを選んでも。
 ――でも、どうせ後悔するんやったら、うちは……。


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